自分の愚劣な生活に対する説明や弁護を、なにかの理論なり文学上の人物の型なりの中に求めずにはいられない。例えば、われわれ士族階級は頽廃しつつありといった具合にね。……現に昨夜ゆうべも僕は、『ああ、トルストイの言うことは本当だ。実もって一言もない』といったことを夜どおし考え...
朝の八時といえば、士官や役人や避暑客連中が蒸暑かった前夜の汗を落しに海にひと浸つかりして、やがてお茶かコーヒーでも飲みに茶亭パヴィリオンへよる時刻である。イ□ン・アンドレーイチ・ラエーフスキイという二十八ほどの、痩せぎすなブロンドの青年が、大蔵省の制帽をかぶり、スリッパ...
朝の八時といえば、士官や役人や避暑客連中が蒸暑かった前夜の汗を落しに海にひと浸つかりして、やがてお茶かコーヒーでも飲みに茶亭パヴィリオンへよる時刻である。イ□ン・アンドレーイチ・ラエーフスキイという二十八ほどの、痩せぎすなブロンドの青年が、大蔵省の制帽をかぶり、スリッパ...