時は正午、日はうらゝかに輝いて、庭上の草叢には虫が鳴いて居る。 翁は起きると言ふ。僕は静かに抱き起したまゝ殆ど身も触るばかり背後に坐つて守つて居た。夫人の勝子六十何歳、団扇を取つて前へ廻つて、ヂツと良人の面を見つめて軽く扇いで居る。 翁は端然と大胡坐をかいて、頭を上げて、...